吉田文紀発言集

全ては志から始まった

私がシンバイオ製薬を興すことを決心した瞬間に、天から降ってきたように「共創・共生」*1) (共に創り、共に生きる)という一言を思いついた。石を池に投じると波紋が生じ、その輪が時と共に大きくなり、また幾重にもなり岸に押し寄せるのと同じで、この「共創・共生」という志は多くの方々の共感を生み、一人から二人に、さらに多くの人々の心に触れ、多くの方々の心に共鳴し、事業に参画いただくことになった。当社の財産は、このひとつの志から生まれた人の輪の総和であり、将来へ向けて共鳴し続けるであろう、志の持つ推進力である。

医薬品の開発は社会資本的側面を持つため、我々医薬品開発に携わるものは、このことを常に心していることが求められる。医薬品企業の経営が規模の拡大とともに見失いがちであるのは、小規模の市場に対する手当てである。医薬品産業においての小規模市場は、患者数が少ない治療領域であり、シンバイオではそれを「空白の治療領域」と呼んでいる。誰かがこの空白の治療領域を埋めていくことの取り組みをしないのであれば、この空白地帯はますます大きくなれど縮小はしないのである。当社で仕事をしている社員の人たちは、この事業が極めて難しい事業であることは十分認識しながら、医薬品業界に身を置くものとして、誰かがやらなければならない仕事として企業使命と自らの職業人生を重ね合わせることにより、企業使命を全うすることを考えている。人は皆、自分が習得した知識・技術が社会のためになり、人のためになり、還元されていくことを望んでおり、シンバイオにおいてはその場が用意されている。創業時から定年を72歳としたのもそのためである。その結果として、空白の治療領域に光を当てることができれば、自らの職業人生も満ち足りたものになるに違いない。

2005年1月に12年間勤めたアムジェン社を退職し、その2ヵ月後の3月25日に当社を設立した。創業のメンバーは 6名であり、既にSAB (Scientific Advisory Board)のメンバーは決まり取締役の構成は決まっていた。4月初旬、新薬候補となる開発品目を手に入れるために米国のベンチャー企業数社を訪問し交渉を開始した。同時に創業資金として、まず6〜7億円を調達することを目標にベンチャーキャピタル各社を訪問したが、各社とも評価の対象としたのは企業使命でもなく、志でもなく、また経営陣・SABのメンバーの内容でもなかった。結局、評価の対象となるものがないという理由で、多くのベンチャーキャピタルはその場で出資を断ってきた。幸い欧米のバイオベンチャー企業3社が交渉に応じ、3品目に絞り交渉を開始し、12月にはライセンス契約を結んだ。一方、第一製薬、EPS,医学生物学研究所をはじめとする事業経営者がシンバイオの志に強く共鳴され出資を決断され、創業資金として7億円を調達できた。すると、ベンチャーキャピタルから開発品がなくとも3社から3億円の資金の提供があった。この年の年末には社員数が12名、開発1品目、創業資金10億円とまずまずのスタートを切ることができた。現在は社員数42名、開発2品目、調達した資金29.6億円となった。シンバイオが開発中の2品目とも米国において既に第 3相試験が進行中であり、日本においても非ホジキンリンパ腫を対象として開発中のベンダムスチンは既に第1相試験を終え、最終臨床試験の準備に入った。日本においての新薬承認申請は2010年、発売を2011年と予定している。

シンバイオの夢は、まずアジア・パシフィック地域において、がん領域・血液領域に特化した最初(First in Class)でベスト(Best in Class)のスペシャルティ医薬品企業になることである。そのためにも、当社の源である志「共創・共生」を追求し、持続性のある事業モデルの構築、そして事業戦略の展開を着実に実行していきたいと考えている。

代表取締役社長兼CEO
吉田文紀

*1)「共創・共生」:詳しくは、「シンバイオの夢」をご覧下さい。
ファルマシア Vol.43 ベンチャーだより 2007年11月号 ※ファルマシアは日本薬学会の会誌です。