キーパーソン・インタビュー

シンバイオ製薬株式会社 執行役員兼CMO 福島 耕治
空白の治療領域を常に見極め、
機敏なグローバル開発を
執行役員 兼CMO 兼 グローバル開発本部長
福島 耕治

質問1.世界で待ち望まれているブリンシドフォビルの可能性について聞かせてください。

ブリンシドフォビルは、幅広い抗ウイルス活性があります。これが非常に大きな特徴であり、どのウイルスに対して開発を進めていくかが、最初の大きなテーマでした。薬の導入後に、グローバルでアドバイザリーボード会議を行い、各国の、特にアメリカの先生からが多かったのですが、専門医の先生方がみんな口をそろえて「アデノウイルスに対する開発を進めるべきではないか」といわれたのが印象的でした。
アデノウイルスは、一般の人に感染した場合は軽い病気で済むのですが、造血幹細胞移植後や、免疫不全症の方に感染すると、致死率が高く、最大で半分ぐらいの方が亡くなってしまうような、非常に重篤な病気になることが分かっています。これに対して開発を進めてはどうか、非常に強いニーズがあるというお言葉でしたので持ち帰って、さらに社内で入念に検討し、まずはこのアデノウイルスをターゲットにしようと決めました。
また、BKウイルスに関しては、まさに今、薬がないのです。例えば、腎臓移植後の患者さんでBKウイルスが出てきてしまうと、せっかく移植した腎臓自体が壊れてしまい、再移植が必要になるなど、患者さんの負担も相当なものになります。世界各国でこのウイルスの腎症にどうやって対応したらいいかと、先生方は非常に苦労されています。しかし、決定的な薬がないものですから、それが非常に求められているところです。
当初、BKウイルスを開発するにあたってオーストラリアのある先生から、ここで開発できないかという提案を、最初にいただいたのです。それだけ熱心な先生がいらっしゃって、薬の開発を望まれているという経緯で、最終的にBKウイルスの開発を手掛けようと決めた次第です。
それから、がん関係ですね。昔から「がんはなぜできるのか」というのが、ずっと医学の話題になっています。例えばC型肝炎、B型肝炎、それからパピローマウイルス、EBウイルス、こういったところは、以前から言われているように、例えば肝炎と肝がんと非常に密接な関係があるわけです。ですから、ウイルスとがんというのは、常に原因と結果といった捉え方ができると思います。
今回、私どもも様々ながんを検討いたしましたが、ヒトのがんで非常に予後が悪いものとして、脳腫瘍が最初に念頭に挙がるところです。これに関しても、治療法が非常に限られ、なかなか薬も出てこないです。この脳腫瘍の一部にウイルスが関与している可能性があるといわれ、特にサイトメガロウイルスなど、ごく一般にあるようなウイルスですね。こういったものにも、ブリンシドフォビルは効果があります。ですから、こういったウイルスを介した腫瘍が抑えられれば、患者さんにとって非常に大きな福音になると思いますので、こちらについても、鋭意探索を進めて、ぜひとも薬にしたいと考えています。

質問2.最初のグローバル製品であるブリンシドフォビルについて詳しく教えてください。

以前からシドフォビルという薬があり、適応症としてはエイズ患者さんの網膜炎なのですが、この薬の難点としては、腎臓に障害を与えるのです。注射剤なのですが、これを何とかうまく利用できないかと工夫されて、脂肪鎖をシドフォビルに付けたのがブリンシドフォビルです。脂肪鎖が付くことによって、腎臓への障害がかなり軽減され、さらに体の細胞の中にとても入りやすくなっています。細胞の中に入って初めて効果を発揮しますので、ブリンシドフォビルは、非常に画期的な薬だと考えています。
ブリンシドフォビルは「Chimerix社(キメリックス社)」から導入したのですが、同社では、経口剤を開発しておりました。経口剤は、現在、天然痘が適応症であり、天然痘は撲滅されていますけれども、バイオテロ等の対策のために、アメリカの国家備蓄用に承認されています。
それまでにブリンシドフォビルの経口剤のいろいろな試験が行われていましたが、この経口剤にも、一部問題があったのです。それは、消化管に下痢等の副作用がかなり出るというもので、その点を考慮し、体の中に入っていきやすい形として、血液に直接点滴する製剤、静注製剤を開発しようということになりました。
導入にあたっては、日本の先生方からも、「アデノウイルスに効くということであれば、造血幹細胞移植後のウイルス性出血性膀胱炎には、先生方が非常に困ってらっしゃる。患者さんにも大変な苦痛であり、亡くなる方もいらっしゃる。そんな薬があるのであれば、ぜひ開発してほしい」といったご意見をいただいたりしました。
そういったなかで導入された製品でございまして、アドバイザリーボードの各科の先生方からもアデノウイルスに対して、まず開発するべきだろうと一貫していわれ、特に小児科の先生は、今、アメリカで進めておりますアデノウイルスに対する第Ⅱ相臨床試験の最初から、計画・立案など細部にわたってアドバイスをいただいております。今、ご施設でも大変な、一番の患者さんを登録いただいています。そういった大変な熱意とサポートをいただきながら、この薬の開発を、今、鋭意行っているところです。

質問3.グローバルスペシャリティファーマへの道のりをどのように歩んでいくのでしょうか。

シンバイオ製薬株式会社 執行役員兼CMO 福島 耕治

グローバル開発を大企業、メガファーマでないスペシャリティファーマが行っていくうえで一番難しいのは、やはりそういった能力や知識が本来ないわけですから、それをどこかで補っていかないと、つまずいてしまいかねないと思います。
そこで、外部の専門家、コンサルタントなどに意見を伺っていきながら、実際の臨床試験は、クリニカルオペレーションを専門とした会社に委託するわけですが、ただ、そこでもやはり、今度は言葉の壁があったり、習慣が違ったり、考え方が違ったりして、なかなか思うように試験が進められないというのが、よく見られる問題点かと思います。そういったことを解決したうえで、シンバイオUSAに優秀な社員が入ったというのは、大変喜ばしいことで、ここ数カ月一緒に協業していますけれども、非常に聡明で開発の細部にわたってサポートいただいています。
今、アメリカでサイトを開いていますけれども、今度はイギリスにまた展開していくと。あとは、BKウイルスに関してはオーストラリアなどですね。それも多岐にわたる地域で試験を行いますから、時差もありますし、よい協力関係を築いていくことは、不可欠だと思っています。
やはりブリンシドフォビルは、非常に望まれている薬というのが大きいと思います。どの先生とお話ししても、非常に協力的です。SAB(サイエンティフィック・アドバイザリーボード)の先生から、最近も新しい論文が出たということでお知らせいただいて、特にEBウイルスが、例えば脳の中枢の免疫疾患に関与しているのではないかとか、あとは、今、全世界を残念ながら席巻しているCOVID-19ですね。コロナウイルスの後遺症である「Long COVID」にEBウイルスも関与しているのではないかというような、まさに最近のトピックを話題として持ちかけていただいて、実際、それを開発していくかどうかというところまで、すぐ数日間で検討に入るというようなプロセスを今、とっています。

質問4.シンバイオ製薬の魅力はどういうところでしょう。

今、トレアキシン®を自販していますが、この導入、承認から適応拡大、それから自社販売、そして剤形も液剤の追加など、これは、吉田社長が一貫して、計画性をもってやられてきたということですね。その経営理念が、やはり非常に素晴らしいと思っています。ですから今も、結構先まで見て、戦略的に開発も考えなければいけない。これは、非常につらい場合もありますが、開発というのは、なかなか先が見えないことが多いですから、やはりその考え方は非常に重要だと毎日学んでいるところです。
その土台には、やはりサイエンスがあり、これを重要視する。そして論理性ですね。当然ではあるのですけれども、開発するにあたって、そこを重要視するという社内の風土がありますし、それを非常に素早く実行していけるだけの機敏さを担保できるガバナンスがあります。それが開発の後押しになって、グローバル開発にも短期間でこぎ着けることができると、そういったところが大企業に比べたら、たいへん魅力的なのではないでしょうか。

質問5.グローバル開発本部のトップとしての抱負や意気込みを聞かせてください。

シンバイオ製薬株式会社 執行役員兼CMO 福島 耕治

開発本部に「グローバル」が付きまして、今、部員の意識もだいぶ変わってきています。グローバル展開していく経験を積めるということも、非常に高いモチベーションにつながるものと思っています。その際に、やはり忘れてはならないのが「空白の治療領域」です。これは治療領域であって、疾患領域ではないですね。これを常に見極める。あるものが出てくれば、その薬の特性に合わせた治療領域というのが出てきます。それが、どこが一番適正なのか、あるいは新規導入品もそういった観点から、適切性を見極めて、空白の治療領域に届けられるものかどうか、どのぐらいのスピードで届けられるのか、そういったところも重要視して、患者さんの元になるべく早く薬が届けられるようにしていきたいと考えております。