キーパーソン・インタビュー

獨協医科大学埼玉医療センター 糖尿病内分泌・血液内科 准教授 木口 亨 先生
再発又は難治性DLBCLの治療に選択肢が
増えたことはとても喜ばしいことです
獨協医科大学埼玉医療センター
糖尿病内分泌・血液内科 准教授
木口 亨 先生

質問1.再発又は難治性びまん性大細胞型B細胞リンパ腫治療について、治験の時と実際の治療の印象についてお聞かせください。

再発又は難治性びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(以下「再発又は難治性DLBCL」)の治験ではベンダムスチン(トレアキシン®の一般名)の120ミリグラムというのはとても不安がなかったわけではありません。しかし、実際に治験で投与すると、安全に治療できるというのが分かり、有効性も非常によかったこともあり好い感触を得ていました。ですから、(BR療法が)承認取得されたときには、私としては正直たいへんうれしく、これで治療の選択肢が増えたと思いました。
一方、実際に患者さんに投与するときに、他の血液内科の先生たちは(治験での)使用経験がなかったので、安全に使えるという私の認識と、他の先生とのギャップがあったので、理解して頂くのに少し苦心しました。

質問2.患者さんよってBR療法※1とPBR療法※2の使い分けはどうなさっているのでしょうか。

BR療法のBR120は、やはり完全寛解を取れるというふうに思っています。あとは、実際に自家移植後の症例に奏効したり、他にはcell-of-originのGCB typeといった症例には、非常に効果があるのではないかと思っています。
PBR療法は、逆にABCタイプとか、あとはベンダムスチン(トレアキシン®の一般名)の用量が少ないので、高齢者とかフレイルな患者には使いやすいと思っています。

※1:BR療法…ベンダムスチン(トレアキシン®)とリツキシマブとの併用療法
※2:PBR療法…BR療法の2剤とポラツズマブベドチンによる併用療法

質問3.実際に処方してみての感想等をお聞かせください。

投与してみて、初回は投与できるのですが、サイクルを繰り返すと、やっぱり倦怠感とか少し強くなってくるというところがあります。ただ、患者さんは、外来への通院治療を希望されていて、他の救援療法では、再発又は難治性DLBCLに対しては、外来で投与できるものはないのです。その点、他のレジメン(治療計画)と違って、外来で積極的にできる治療として、BR療法とPBR療法がありますので、そこは非常に使い勝手がよく、メリットはたいへん大きいと思います。

質問4.新型コロナウイルスの感染拡大の中で、治療の際に気をつけている点や患者さんの声等をお聞かせください。

濾胞性リンパ腫の治療については、日本血液学会からも治療を延ばせられるのであれば、延ばそうとアナウンスされています。
私自身もやはり濾胞性リンパ腫は、リツキシマブの治療が中心になりますし、現在は腫瘍量の多いものに対しては、BR療法が中心となりますが、免疫力がかなり低下してコロナの重症化が懸念されますので、有害事象というか、合併症がなければ、治療をなるべく先延ばしにしています。
一方、患者さんは、診断はついたけれど、治療しないという選択にすごく不安がられる方もいて、そこは残念だけれど治る病気ではないことや、もし先延ばししても、生存率に差は認められないといったこと、あるいは逆にリツキシマブを中心とした治療で、コロナに感染したときの危険をお話しさせていただいて、納得して頂いています。

獨協医科大学埼玉医療センター 糖尿病内分泌・血液内科 准教授 木口 亨 先生

質問5.治療の現場では、どのようなコロナの影響がみられましたでしょうか。

患者さんは、やはりコロナには神経質になっていますので、治療の影響でコロナが重症化するというような話を聞いた場合には、やはり素直に受け入れられるケースが多いと思います。
オミクロン株になってからは、リツキシマブを投与している患者さんは、コロナ感染の重症化が懸念されましたが、幸い重症化することはありませんでした。それは、過去に数回ワクチンを受けている効果であったり、オミクロン株の重症化が、それほど多くないといったことが影響していると思われます。

質問6.ベンダムスチン(トレアキシン®)が初発治療の選択肢としてガイドラインに記載されてから治療に変化がありましたか。

獨協医科大学埼玉医療センター 糖尿病内分泌・血液内科 准教授 木口 亨 先生

BR療法が使えるようになっても、最初はR-CHOP療法も使われていたのですが、もう今は、自分の施設はもちろん、日本全国を見ても、ほとんどの血液の先生がBR療法、もしくはGB療法(オビヌツズマブとベンダムスチン(トレアキシン®)の併用療法)に移行したと思っています。

質問7.以前と比べて、FL再発までの期間や患者数等についての印象はいかがですか。

ベンダムスチン(トレアキシン®の一般名)をベースとした治療、BR、GB療法を行ったあとの Follicular lymphoma(濾胞性リンパ腫)の患者さんの再発は、以前と比べて隔世の感を感じるぐらい、ほとんどいなくなりました。実際、それがどうして分かるかというと、再発したFL症例の臨床試験が行われているが、再発例がなく症例を組み入れることができない状況です。全国から組み入れをしようとしても再発した濾胞性リンパ腫の患者さんが少なく、臨床試験の組み入れに苦労しているというところからも伺えるかと思います。

質問8.FL再発治療でのベンダムスチン(トレアキシン®)の位置づけに変化はありましたか。

濾胞性リンパ腫自体が、BR療法も含めて、かなりよく奏効する症例と、全く奏効しない、効果が認められない2つのグループに分かれると思います。全く効かないグループは、例えばBR療法で入った場合は、全く違うレジメンの治療を選択しますが、最初にBR療法で治療した場合、奏効した患者群はその後すぐには再発せず、数年経って再発することになりますので、その場合はまた再治療という形で、BR療法をもう一度使うといった治療をしています。

質問9. FL再発患者さんに対する治療においてBR療法の意義とはどのようなものでしょう。

BR療法以外となると、CHOP療法を中心とした治療、レジメンになると思うのですが、アドリアマイシンのようなアントラサイクリン系の抗がん剤が入ってしまうと、心臓への蓄積毒性があります。そして、やはり濾胞性リンパ腫も現在、残念ですけれど不治の病ですから、長期で見て患者さんに治療を継続できるということを優先的に考えますので、その場合のBR療法は、プログレッションフリーサバイバル(無増悪生存期間)が十分とれ、蓄積毒性もないといったところで、高い選択肢に挙がると思います。

質問10. 最も注意している副作用についてお聞かせください。

一番はリンパ球減少の懸念であり、日和見感染、サイトメガロウイルス感染やニューモシスチス肺炎です。そういったものを合併する症例が非常に多く、また、いったん発症した場合に重症化することがあります。実際、当院でも、残念ですが亡くなる患者さんもいることから、日和見感染が特に注視するところです。
他によく認められる副作用としては、血管痛があります。血管の痛みに対する対応で難渋するところです。

質問11. 液剤の販売後、どんな変化がありましたか。

剤形の変化によって、副作用のプロファイルが変わるということはないのですが、剤形が変わったことについてスタッフに聞いてみると、例えば、調剤薬剤師からの意見としては、前は溶解したあとに3時間以内に患者さんへ投与し終わらないといけないということで、かなり時間を気にして調整をしていたのですが、液剤に変わってからは、かなりゆっくりと調整することができて、現場ですごく楽になったといわれています。
また、看護師サイドからは、当院では調剤した時間をラベルに貼るようにしています。決められた手順では、以前は3時間で投与というのが、現在は液剤になって6時間投与になったので、看護師さんに時間の猶予ができて、落ち着いて治療ができると喜んでおられました。