キーパーソン・インタビュー

NCCS腫瘍内科シニアコンサルタント デュークNUS大学医学部准教授 医師、英国王立内科医、内科学医学修士、FAMS(腫瘍内科)、がん生物学博士 ジェイソン・チャン 先生
血液学と腫瘍学におけるブリンシドフォビル(BCV)の可能性
-3年間の研究成果-
NCCS腫瘍内科シニアコンサルタント
デュークNUS大学医学部准教授
医師、英国王立内科医、内科学医学修士、FAMS(腫瘍内科)、がん生物学博士
ジェイソン・チャン 先生

質問1.2022年から2024年までの共同研究の進展について教えてください。

ブリンシドフォビル(以下BCV)は当初抗ウイルス薬として開発されていましたが、2020年にリンパ腫を含むがんに対する効果が発見されました。シンガポール国立がんセンター(NCCS)ではNK/T細胞リンパ腫細胞株を用いたin vitro(試験管や培養器等の中での)試験から研究を開始し、マウスモデルでその結果を検証、作用機序についても多くの研究を行いました。これらの成果は2022年12月のASH(米国血液学会)で口頭発表を行いました。その後、様々なリンパ腫サブタイプへのBCVの効果について研究を継続し、2024年にはAACR(米国がん学会)、EHA(欧州血液学会)、ASHの主要な学会で発表を行いました。これらの発表で、末梢T細胞リンパ腫や様々なB細胞リンパ腫を含む、あらゆるリンパ腫サブタイプに対してBCVが強力な活性を示すことが明らかになりました。

質問2.各学会ではどのような発表をされましたか。

AACR(米国がん学会) 2024
世界最大のがん学会であるAACR年次総会では、BCVのB細胞リンパ腫への効果、特に、最も一般的なサブタイプであり、依然として多くの患者で完治が難しいびまん性大細胞型B細胞リンパ腫に対する高い活性を示すデータを発表しました。15種類以上のB細胞リンパ腫細胞株モデルでBCVの活性を確認し、マウスモデルでも強力な活性が認められました。さらに、BCVがB細胞リンパ腫におけるいくつかの重要ながんシグナル伝達経路を阻害するメカニズムも解明されました。

EHA(欧州血液学会) 2024
欧州最大の血液学会であるEHA年次総会では、末梢T細胞リンパ腫(PTCL)に対するBCVの活性について発表しました。PTCLは世界的にも有効な治療法が少なく、特にアジアにおいて治療が困難な疾患です。BCVはPTCL細胞株モデルで高い活性を示し、マウスモデルでも顕著な奏効が認められました。特に、マウスモデルでは最も侵攻性の高いPTCLサブタイプである未分化大細胞型リンパ腫(ALCL)が用いられ、BCVの強力な活性が確認されました。また、BCVがPTCLにおける多くの重要ながん促進シグナルを阻害するメカニズムも解明されました。

ASH(米国血液学会) 2024
ASH年次総会では、NK/T細胞リンパ腫、PTCL、B細胞リンパ腫を含む様々なリンパ腫におけるBCVに関するデータを発表し、免疫チェックポイント阻害剤(ICI)との併用療法の可能性を示唆する最新の知見が共有されました。BCVはがんシグナル伝達経路を阻害するだけでなく、免疫応答も誘導するというユニークな作用機序を持つことが示されました。細胞株モデルでは、多くの重要な免疫および炎症シグナル伝達経路の活性化が観察され、マウスモデルでは、BCV投与後、特に抗PD-1抗体との併用投与により、リンパ腫腫瘍への免疫細胞の集積が観察されました。これらのデータは、今後の臨床試験において、BCVと抗PD-1抗体を含むICIとの併用療法に大きな可能性があることを示唆しています。

質問3.現在行われている臨床試験についてどのような期待がありますか。

NCCS腫瘍内科シニアコンサルタント デュークNUS大学医学部准教授 医師、英国王立内科医、内科学医学修士、FAMS(腫瘍内科)、がん生物学博士 ジェイソン・チャン 先生

NCCSとシンバイオ製薬の共同研究成果に基づき、リンパ腫に対するBCVの臨床試験が開始されました。これは、2022年の前臨床試験からわずか3年での臨床試験開始という非常に迅速な進展です。40~50種類以上のリンパ腫患者由来の細胞株モデルと様々なマウスモデルで得られた確かな前臨床データに基づいており、臨床試験における良好な結果が期待されます。BCVは、PTCL、NK/T細胞リンパ腫、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫など、様々なリンパ腫サブタイプに対する治療薬として承認される可能性を秘めています。

質問4.固形がんへの応用についてはどのようにお考えですか。

BCVは、エプスタインバーウイルス(EBV)などの様々なウイルスを阻害するだけでなく、EBV陰性のがんにも効果を示し、MYCがん遺伝子を含む重要ながんシグナルを阻害する作用機序が明らかになっています。さらに、免疫応答も誘導できることから、免疫療法との併用療法の可能性も期待されます。リンパ腫での成果を踏まえ、他のがん種への応用も期待されており、シンバイオ製薬とのさらなる共同研究が推進されています。

質問5.今後の共同研究について教えてください。

現在、日本とシンガポールで早期臨床試験が進行中ですが、今後は後期臨床試験へと展開し、日本、シンガポール、その他多くの国で薬事承認を取得することが期待されます。NCCSはシンバイオ製薬とのさらなる協力関係を強化し、固形がんを含む他のがんサブタイプへのBCVの作用機序解明にも取り組んでいく予定です。

質問6.シンバイオ製薬へのメッセージをお願いいたします。

NCCSとシンバイオ製薬にとって今年は非常にエキサイティングな年になるでしょう。これまでの3年間の共同研究を振り返り、シンバイオ製薬の今後のさらなる発展を祈っています。臨床試験の成功は、将来の共同研究と成果を共に祝うための絶好の機会となるでしょう。これまでの3年間、NCCSチームと緊密に協力してくれたシンバイオ製薬のメンバーの献身的な対応に、心から感謝申し上げます。みなさんの強力なサポート、継続的な議論、そして協力なしには、これらの成果は得られなかったでしょう。引き続き変わらぬサポートよろしくお願いします。