キーパーソン・インタビュー

国立がん研究センター脳脊髄腫瘍科 科長 成田 善孝 先生
新薬開発で膠芽腫の克服を目指す
シンバイオ製薬の挑戦に感謝します
国立がん研究センター脳脊髄腫瘍科
科長
成田 善孝 先生

質問1.シンバイオ製薬は、悪性脳腫瘍に対する治療薬の開発に取り組んでおります。膠芽腫こうがしゅは脳腫瘍の中で、どのようなものか教えてください

脳腫瘍は、国内では年間約3万人の患者さんが発症します。その中の約4分の1、7000人程度が悪性の脳腫瘍、すなわちがんといわれるものです。脳腫瘍は様々な種類がありますけれども、その中で最も多いのが、膠芽腫という腫瘍で約2000人の患者さんが年間発生することになります。
脳には神経細胞ニューロンと、それからニューロンを支持する神経膠細胞=グリアというものがあります。一般的に神経細胞は大人になると分裂しませんが、神経膠細胞は炎症やその他の反応によって分裂することがあります。この神経膠細胞から発生するのが、膠芽腫です。
膠芽腫は、治療成績がとても悪く、全てのがんの中でも最も悪いものの一つです。

質問2.膠芽腫の患者さんはどのような経緯で先生の施設を受診され、どのように対応されていますでしょうか。

膠芽腫というのは、患者さんが最初に症状に気づいてから、あっという間に病気が進行することが特徴です。膠芽腫の患者さんの多くは、手足の麻痺や、言葉の障害、すなわち思っている言葉が出てこない、あるいは理解力が低下した、ということでクリニックや病院を受診します。そのような患者さんがCTやMRIを撮ると、脳腫瘍が疑われ、その治療のために当院に紹介されてくることが多いです。膠芽腫というのは、あっという間に症状が進行しますので、我々はできるだけ早く治療するように計画を組みます。

質問3.膠芽腫に対する現在の標準治療について教えてください。

国立がん研究センター脳脊髄腫瘍科 科長 成田 善孝 先生

標準治療というのは、今ある最も優れた治療のことをいいます。膠芽腫は脳にできますので、この腫瘍は慎重に摘出しなければ、言葉の障害や手足の麻痺が残ってしまいます。そこで症状を出さずに、むしろ症状を良くなるように計画をたてて、腫瘍を摘出します。その上で、放射線や化学療法を行うことが標準治療です。
症状を出さずに、腫瘍を摘出するためには、患者さんと会話しながら行う覚醒下手術を行うこともあります。

質問4.膠芽腫の治療に関して先生がご苦労されている点、また患者さんやご家族にとって辛く感じられる点について教えていただけますか。

膠芽腫の患者さんを診ると、しばしば症状の急速な進行を実感します。膠芽腫は1週間、2週間といった短い期間であっという間に症状が進行してしまうことがあります。進行してしまうと治療がなかなか難しくなり、家に帰れないといったようなことも出てきます。
膠芽腫の治療で一番困っていることは、使える薬が少ないことです。様々な薬があれば、もっともっと患者さんが良くなることが期待されますけれども、現状では治療薬の開発が遅れていることが最も困っていることです。

質問5.膠芽腫治療の変遷と治療薬の開発(進歩した点と未充足の点)について簡単にご紹介いただけますか。

膠芽腫の治療で最も進歩したことは、手術法の改良です。覚醒下手術といって、患者さんと話をしながら行う手術や術中MRIがいくつかの施設に広がっています。放射線については、正常な脳への影響を少なくなるような放射線治療法なども開発されています。
しかしながら、治療薬に関していえば、この30年で有効な治療薬というのは極めて少ない状況にあります。1970年代にニトロソウレアという薬が開発され、2005年頃にテモゾロミドという薬が開発されました。さらに2010年頃にベバシズマブという薬が出てきましたけれども、現在、患者さんにとって有効な薬はこのテモゾロミドとベバシズマブだけでなかなか新しい治療薬が出てこないのが一番の問題です。

国立がん研究センター脳脊髄腫瘍科 科長 成田 善孝 先生

質問6.膠芽腫に対する新たな治療薬の開発が難航している理由について、先生はどうお考えですか。

膠芽腫の治療薬開発がなかなか進まない原因は、この疾患の年間の発生数が2000人と少ないことが挙げられます。世界でも少ないがんを「希少がん」といいますけれども、膠芽腫に限らず、様々な希少がんにおいては、経済的に利益を上げることが難しいため、多くの企業が二の足を踏むことが多いと思います。

質問7.シンバイオ製薬ではカリフォルニア大学サンフランシスコ校と難治性脳腫瘍に対するブリンシドフォビルの抗腫瘍効果を検討する非臨床試験を開始しており、動物実験においてテモゾロミドとの併用効果を確認しています。今年の後半には第Ib相臨床試験を開始する見込みで開発を進めています。弊社の取組みにどう期待されますか。

データを見る限り、実験はうまくいっていて、十分なデータがあると思っています。今後は、この実験で得られた結果が、実際の患者さんにもうまくいくのかどうかを見ることが極めて重要なことだと思います。

質問8.シンバイオ製薬に期待することをお聞かせください。

膠芽腫の治療薬の開発が難しいことについては、先ほどお話しましたが、この難しい疾患に対して、シンバイオ製薬が挑戦して、この病気を克服しようと考えてくることに心から感謝します。ぜひこの病気を克服してほしいと考えています。