キーパーソン・インタビュー

シンバイオ製薬株式会社 トランスレーショナルリサーチ部 メディカルアドバイザー 医師・医学博士 神谷 哲
ブリンシドフォビルで広範な適応症に挑む:
これまでの成果と未来への期待
シンバイオ製薬株式会社 トランスレーショナルリサーチ部
メディカルディレクター 小児科教授メディカルアドバイザー 医師・医学博士
神谷 哲

質問1.神谷さんのご専門と、シンバイオ製薬における役割についてお聞かせください。

私の専門は臨床免疫学であり、その中には腫瘍免疫および感染症免疫といった分野が含まれます。そのため、ウイルス感染症に対する免疫学も私の研究対象です。現在、シンバイオ製薬ではトランスレーショナルリサーチ部門に所属し、前臨床試験を担当しています。特に固形がんに対する試験に注力しています。

質問2.固形がんはどのような経緯で担当することになったのでしょうか。

私どもが現在手掛けているブリンシドフォビルという薬は、抗ウイルス薬として開発されてきましたので、当初からウイルス感染症に対する前臨床試験や臨床試験を行ってきました。ここにきて、どうして私たちががん領域に足を踏み入れたのかについて説明したいと思います。ブリンシドフォビルが奏効するウイルスにはがんの発症に関与するものがいくつかあります。そのため、そういったがんではブリンシドフォビルでウイルスをたたけばがんの増殖を抑制できるかもしれないと私たちは考えました。実際、前臨床試験をしてみたところ、ブリンシドフォビルが効くがんがいくつか確認されました。そして、意外であったのですが、ウイルスに関係したがんのみならず、ウイルスとの関係が証明されていないがんにもブリンシドフォビルが奏効することが最近わかってきました。私の専門がウイルス感染症や腫瘍に対する臨床免疫学ですので、弊社では私が固形がんを担当することになりました。

シンバイオ製薬株式会社 トランスレーショナルリサーチ部 メディカルアドバイザー 医師・医学博士 神谷 哲

質問3.血液がん治療薬を手がけていたシンバイオ製薬が固形がんに事業展開する際のアドバンテージはあるのでしょうか。

シンバイオ製薬では、現在「トレアキシン」という血液がん治療薬を販売しています。この成功基盤をもとに、固形がん領域へと事業を展開することは、がん領域の知識や経験が豊富な人材を活用できるという大きなアドバンテージがあります。

質問4.2024年末までの前臨床試験の成果について教えてください。

これまでの固形がんに対する前臨床試験は、ほぼ全てが2024年に行われ、大きな進捗がありました。最初に私たちは、固形がんに効くかどうかを確認するために、in vitro、つまり培養細胞を使った試験を行いました。具体的には、ブリンシドフォビルを培養液に加え、がん細胞がどれだけ死ぬかを調べました。合計で50種類以上の固形がんの培養細胞を使い、その効果を確かめたのです。その結果、特にブリンシドフォビルがよく効くがん細胞の種類が10種類以上あることがわかりました。一方、ほとんど効かないがん細胞があることもわかりました。これらの結果を踏まえて、次のステップとして動物実験へ進みました。動物実験では、ヒト化マウス(ヒトの免疫細胞を持つマウス)という特殊なマウスを用いました。そのマウスに、ヒトのがん細胞を移植し、ブリンシドフォビルの治療実験を行いました。その結果、非常に興味深い知見がいくつか得られました。ブリンシドフォビルが直接がん細胞を殺すだけでなく、免疫細胞を介してがん細胞を殺していることも確認しました。いまのところ、複数のがん種に対してブリンシドフォビルの抗腫瘍効果が確認されています。

質問5.免疫療法との併用についてはいかがでしょうか。

あくまで、マウスを用いた試験結果なのですが、ブリンシドフォビルは単剤療法だけでもよく効くことがわかりました。しかし、ある程度の用量が必要でした。免疫療法との併用療法では、ブリンシドフォビルは低用量でも十分な効果が得られることがわかりました。この併用療法では、現在の標準治療と同等、あるいはそれ以上の効果を示す結果が得られました。今後の臨床開発が順調に進めば、現行の標準治療に取って代わる可能性があると考えています。

質問6.現在、ブリンシドフォビルは三つの疾患領域(移植後感染症/血液がん・固形がん/神経疾患)で多くの適応症ターゲットに開発を進めておりますが、そのポテンシャルについてお聞かせいただけますでしょうか。

各疾患領域について、ブリンシドフォビルが持つポテンシャルを説明します。

ウイルス感染症:
ブリンシドフォビルは、特定のウイルスに対してではなく、複数のウイルスに対して効果 (ブロードスペクトラム)を示します。これは従来の抗ウイルス薬にはない大きな特徴です。現在の抗ウイルス薬は主に特定のウイルスにしか効かないものが多いのですが、ブリンシドフォビルは複数のウイルスに対する治療効果が期待されており、非常に高いポテンシャルがあると考えています。

がん領域:
当初はEBウイルスに関連したリンパ腫に対する前臨床試験が実施され、ブリンシドフォビルの抗腫瘍効果が確認されました。その後、血液がんだけでなく、 ウイルスに関係しないがんにも効果があることが明らかになってきました。これにより、ブリンシドフォビルはがん治療においても複数のがん種に対する適応の可能性が期待され、高いポテンシャルを感じています。

神経変性疾患:
ブリンシドフォビルの効果が期待される神経変性疾患には、多発性硬化症やアルツハイマー型認知症などがあります。詳しくのべると、アルツハイマー型認知症の病因には、ブリンシドフォビルが抗ウイルス活性を示す単純ヘルペスウイルスの関与が考えられています。タフツ大学との共同研究では単純ヘルペスウイルスの再活性化によるアルツハイマー型認知症モデルでブリンシドフォビルの効果が示されました。この例はまさにブリンシドフォビルのポテンシャルを示しており、私たちは従来の治療法で十分な効果が得られないような神経変性疾患領域に新たな可能性を提供すること目指しています。

以上の三つの疾患領域において、ブリンシドフォビルが示すポテンシャルは極めて高く、今後の研究・開発を通じてさらに多くの成果が得られることを私たちは期待しています。

質問7.2025年1月に開催されたJPモルガンカンファレンスに参加されたとのことですが、その役割や目的、そして成果について伺えますでしょうか。

2025年1月に、アメリカのサンフランシスコでJPモルガンカンファレンスが開催されました。このカンファレンスでは、多くの企業が自社の活動や状況を説明し、質疑応答を行いました。私たちシンバイオ製薬のチームもこのカンファレンスに参加し、同じくカンファレンスに集まった投資家の皆様方との面談も行いました。
私の役割は、ブリンシドフォビルの活性やポテンシャルについて説明することでした。先ほど述べたウイルス感染症、神経変性疾患、がん領域でのブリンシドフォビルの前臨床試験における効果について具体的にお話しし、今後の展開についても共有しました。投資家の皆様には、ブリンシドフォビルのポテンシャルを理解していただき、共感を得ることができました。
また、投資家の方々と直接会話することで、彼らが何に関心を持ち、どのような視点で私たちの取り組みを見ているかを知ることができました。これは非常に有意義な経験であり、今後の活動に役立つ知見を得ることができました。

シンバイオ製薬株式会社 トランスレーショナルリサーチ部 メディカルアドバイザー 医師・医学博士 神谷 哲

質問8.カンファレンスにおけるパートナーシップに関する成果についてお話しいただけますでしょうか。

いくつかの企業とパートナーシップに向けた話し合いを進めてきました。その中で、非常に興味を示してくださった企業も複数ありました。今後、それらの企業と継続的に話し合いを進め、具体的な提携に向けた準備をしていく予定です。

質問9.最後に、株主の皆様に向けて今後の抱負をお願いいたします。

ブリンシドフォビルという薬剤は、先ほど説明致しました三つの疾患領域において、高い可能性を有しています。それぞれの疾患領域でのブリンシドフォビルの効果は、前臨床試験の結果からも明らかになってきており、今後の臨床試験を通じてさらなる進展が期待されます。
特に、広い疾患領域におけるブリンシドフォビルの有効性は、既存の治療法の先にある、新たな標準治療を作り出す可能性を秘めています。株主の皆様には、当社の研究開発活動に引き続きご期待いただきたいと思います。私たちは、この薬剤のポテンシャルを最大限に引き出すべく、全力で取り組んでまいる所存です。