キーパーソン・インタビュー

ウエルインベストメント株式会社取締役会長 早稲田大学名誉教授・商学博士 松田 修一 様
明確な成長ストーリーに抱いた、
一緒に苦労してみたいという思い
ウエルインベストメント株式会社 取締役会長
早稲田大学名誉教授・商学博士
松田 修一 様

質問1.吉田社長との出会った頃のエピソードなどあればお願いします。

シンバイオ製薬ができる10年ぐらい前に、日本アムジェンの社長を吉田さんがやっておられまして、当時『バイオの開拓者物語 アムジェン成功の軌跡』という本を出版されていました。その出版の前年に私は早稲田大学で「アントレプレヌール研究会」をスタートし、そこにジャフコをはじめ、日本の名だたるベンチャー支援者が全て会員に入っていました。そのような組織は日本で初めてだったことで新聞に載りまして、たぶんその記事を吉田さんが見られたのだろうと思いますが、さきの本を送っていただきまして、それがきっかけで吉田さんのところを訪ねていったという次第です。

質問2.創業前後のシンバイオ製薬で印象的なことがあればお聞かせください。

社外取締役を引き受ける前に、吉田さんがどういう活動をされていたか、どういう(医師の)先生方とお付き合いしているのか、そういうことは結構興味があったわけですが、アムジェンの本をいただいたあと、同社の創業者であるラスマン博士を吉田さんから紹介されて、ラスマン博士と当時はファクスでやりとりしながら、ケーススタディを書きました。その時、どんな苦労をしながらバイオベンチャーを立ち上げてきて、奇跡的に大きな新薬が出たかということがよく分かったものですから、そういう企業におられた方が、日本で会社を興すわけですよね。起業家というのを考えてみると、自分の思いというものをどれだけ強烈に持っているか、それが社会のニーズと目指すべく事業の方向性と一致するということが、非常に大事です。そういうことで、吉田さんが事業を興すときに、それは私も何かお付き合いもしたいと同時に、もう1つはやはり、これはケーススタディとして面白い、日本の特異なケースになるのではないかというふうなこともありました。
「シンバイオ製薬」には製薬と名前がついていますが、他のベンチャーでありますかね。ないのです。創薬はあるのに、なぜ製薬なのか?製薬というのは、自分でつくって、アウトソーシングを使うにしても自分で売るということでないと製薬にならない。シンバイオ製薬は、はじめからそこまで目指していた。希少疾患であるがゆえに空白の医療領域となっている、言い換えるとマーケットがあるのに何も製品がないところを開発していく、しかも自ら売っていこうという考えが、当時からあったという非常にレアなバイオベンチャーだったので、興味が非常にありましたね。

質問3.創業間もないシンバイオ製薬へ出資した理由や社外取締役を引き受けた経緯等を教えてください。

やはり、バイオベンチャーは、一般論からすると、圧倒的にリスクが高い。新薬候補から製品化できるのは2万分の1とか、3万分の1ですからね。それで、臨床に入ってからまたリスクが高いし、ましてや、製品をつくるとなると、もう巨大な設備投資もかかる。そういうようなリスクが高くて、お金が必要なのは確かなのですが、シンバイオ製薬の場合は、対象が希少疾患で日本では空白の治療領域だということですよね。これは、相当リスクを軽減するものと思いました。もう1つは、患者数という、言い換えるとマーケットがある程度読めるということがあるのと、希少疾患であるが故に、そこの分野について特化してしまえば、競争優位が相当確立できるだろうと。
ですから、成長ストーリーというのが、結構明確だったのです。私もベンチャーキャピタルのトップとして、ベンチャーに投資をやる以上は、出資者に損をさせてはいけない。その確率的に、ほかと比べたらリスクが低いかどうかというのは、もちろん考えましたけれど、ストーリーが非常に明確で、希少疾患がベースで、しかも小さい柱を何本も立てようというビジネスモデルというのは、日本ではやはり初めてだったのです。そこに非常に興味があって、共に一緒にちょっと苦労してみながら、中から会社を見るとどういうふうになっていくのかという変化を楽しみたいというか、一緒に苦労も含めてね、そういう思いがありましたね。
キャピタルというのは、監査法人もそうですが、株式公開まではみんな一生懸命応援するものです。儲けなければいけないから。公開したら、スッと結構薄くなるのですね。熱が若干冷める。ところが、ベンチャーというのは公開してからまた株主のことも含めて、すごく苦労していくわけでしょ。そこを見捨てないキャピタルというのかな。それが本当は必要で、アメリカの有力キャピタルというのは、それもやっているのですよね。もちろん、公開したらいつかは売りますよ。しかし、まずは長く付き合うと。
われわれウエルインベストメントはまだ株主ですからね。若干ですが。何で長く持っていて、タイミングがいいときに売らないのだと第三者は思ってしまうのだけれど、このビジネスモデルがユニークだから、そのうち大化けする、もっとすごい会社になるかも知れないと見たところは、長く持って良いのではないでしょうか。

質問4.シンバイオ製薬が自ら新薬承認を取得し、黒字化したことについて、どのような印象をお持ちですか。

最終的に自分でつくって、自分で売るというところまでというのは、ものすごいリスクとコストもかかる。それを自分でやるということは、大変なことだろうと思うのですね。
それぞれ開発途上のリスクが高いのと、今度はできたらそれを売っていかなければならない。MRの問題もありますし、販売チャネルをどこまできっちりつくれるかということもある。販売チャネルは、つくればすぐ売れるという話ではなくて、競争のなかでやっているわけですから、そういうことを考えると、相当ロングなプランと強い意志と、その意志を支える経営チームというのがしっかりないと、そこまでいけないのだろうなと思いますね。
そういう意味で、ここにいる会社の方々も、よくぞその方向に耐えてこられたなと思いますし、会社も相当な資金を投入しながら、大変な努力だったわけですが、多くの人のバックアップがあって、ここまで来られたのだろうなというふうに思います。
やはり現実に、製品を売ってお客さんに届けるというところまで、本当にやってみないと、薬のことって分からないのではないでしょうか。販売をして、今度はお客さまの意見を直接聞けると。今までは、出てくる可能性に対して、「そういう新薬があったらいいよね」というお客さんの声だったのだけれど、今度はリアルな声ですよね。自ら売るという努力ということをやってみないと、何が問題なのかというのが分からないし、適応拡大についてもお客さんから直接いろいろな情報を取ってみないと、実現できないと思うのですね。それを希少疾患というか、小さいユニットのところで、よくぞやられてきたなと。それで今回、完全に黒字化してきましたからね。日本で初ですよね。結果から見ると、相当な皆さんの努力でここまで来られたのだなというふうな気がしますね。

ウエルインベストメント株式会社取締役会長 早稲田大学名誉教授・商学博士 松田 修一 様

質問5.シンバイオ製薬と他のバイオベンチャーとの違いをどこに感じていますでしょうか。

いわゆるネット系やICT系、ものづくりも含めて、ベンチャーの中で創薬はとにかくリスクが高いですね。基礎研究があって、前臨床をやって、臨床をやって、フェーズⅠ、Ⅱ、Ⅲと、時間軸が相当長く、コアのところの開発から適応拡大を広げていって、次の柱をまたどう立てるかというのを、その長い時間軸の中で考えながらやっていかないといけない。時間軸が長いビジネスを、1つの目標にぶれないで突き進んでいくかというのは、最初の成功モデルというのが、すごく大事なのだろうという気がするのです。最初の成功モデルがないまま、お金だけ集めたけれど、終わってしまったというのはいくらでもあるわけですよね。
それで、今度はマーケットが巨大になると、規模が三桁ぐらい違う他社からも攻められてしまい、どうしようもないということで、そういう意味では、空白の治療領域を目指した最初のやり方というのは、競争相手ということを考えると、国内マーケットではあったけれども、非常に選択肢としてよかったのではないかなという気がするのです。日本とかアジアの一部というところだけに限られてしまいますけれども、そこの中でじっくりいろいろな意味で能力を、経営全体の能力を蓄えてこられたということが、よかったじゃないかなという気がします。
何しろやはり、一番リスクの高い領域で時間軸は長くて、それに対して耐えていかなければいけない。それが17年で完全に黒字化ができて、100億を目指して回っていきはじめるというのは大変なことであり、日本でレアケースですね。

質問6.グローバル展開も進めている今後のシンバイオ製薬に対してアドバイスなどありましたらお願いします。

ウエルインベストメント株式会社取締役会長 早稲田大学名誉教授・商学博士 松田 修一 様

特に新薬の場合に、日本の国民皆保険制度は、企業家からすると挑戦するのに非常にやりにくい面があると思います。先頭を走っていても、価値がこのぐらいだから、1つの治療に対して1000万円かかりますというのは、認められない。皆保険制度ですから、やはり相当限界がありますよね。
シンバイオ製薬はいままで希少疾患という競争がわりとない、特異で小さいマーケットで、大手があまり入ってこないところでしっかり力をつけてこられて、開発プロセスや人の集め方、プロモーションも含めてずいぶん学ばれて、東京というか、日本中心にやっておられたのが、拠点を海外に、特に大きなアメリカマーケットにつくられた。
もともと吉田さんは、アムジェンという世界マーケットで、開発中心でやってこられた方ですから、昔のアムジェンの体験をお持ちです。ですから、世界に向けての新薬というものの、日本国内の空白ではないところまでも、もうすでに知見があるわけですよね。
そういうことを考えると、最終的に製品を自分で売っていくというところまでもやったスキルと、皆さんの全体的なスキルというのは、相当僕は凝縮された、いわゆる創薬よりも製薬のモデルですね、今、小さいユニットである程度実験は終わっているのだろうと思うのです。
ですから、これからまだまだいろいろな世界マーケットへの挑戦ということが、いくつも控えているというふうにお聞かせいただきましたけれども、これはやはり、皆保険制度のなかでは非常に難しい。日本の限界というのがある。そういう意味で、これからシンバイオ製薬が今までの知見と、もともと皆さんが活躍された体験を生かせるとすると、開発もマーケットも、第1弾目はアメリカでとかね、そういうふうなことをやれる力が、だんだんついてきたのかなと思います。蓄えてきた会社全体の知見が力になり、これから海外で開発するときに、本当に生かせていけるのではないかなというふうなことを期待しますね。

質問7.株主や患者さまに対して一言お願いします。

特に株主は、この会社は将来性があるかな、儲かるかなと、基本はそこで、それを前提として、どういう戦略をとっているから、これは長期にもっていったらいいのか、短期に鞘稼ぎをしようかというふうになると思うのです。残念ながら、今回のこれだけの黒字を達成しながら、株価がちょっと上がって、また落ちたと。これは市況の問題もありますがそういう状況です。でも、長いトレンドで見ている株主は、きちんと見ているのではないかなという気がするのですね。
それとやはり、患者さんということを考えると、これはもう最大のお客さま。日本だけではない、日本固有な病理はもちろんあるのでしょうけれど、これは人間ですから、ほとんど世界共通なのだろうと思うのですね。そうすると、そういう患者さんに対していち早く何を届けるか。本当に基礎研究の段階から、ちょっと知財が取れた段階のものを早く見つけて、そこからトータルでの開発力があるかどうかが、結局、創薬会社の大化けにつながっていくのだろうというふうに思うのです。シンバイオ製薬はそこを目指しながら、製薬までもやっている面白さというものがあるので、相当ユニークな会社なのですよね。
世界に行った時に、「製薬」というのがそのまま使えるのかどうかというと、私などはよく分からないわけですが、開発という途上では、いろいろなコアのところから適応拡大で周辺を広げて、ピラミッドをつくっていくというようなやり方をして、さらに新しい世界で戦える新薬が加わってきて、それと同じようなことをやる。そのような芽が、やっと今芽生えてきたのかなと思います。そういう意味では、ちょうど今、「第二の創業」とうたっているのですが、国内の空白の医療領域を埋めるだけではない、次のステージにシンバイオ製薬が出ていける、そういう能力が今、蓄えられてきたのではないかなというふうに思っています。