3.同時に3つの治療領域に挑戦

1剤で様々な画期的新薬になりうる

一般に新薬開発は1剤1領域で行われますが、ブリンシドホビルはその抗ウイルス効果の幅広さをはじめとする比類のないポテンシャルをもって、同時に3つの治療領域での開発を実現しています。これはシンバイオ製薬がグローバルライセンスを取得した時点の見通しを遥かに超えるものであり、その点からも稀に見る可能性を秘めた新薬開発といえるでしょう。
開発の進む3つの治療領域は次のとおりです。

移植後ウイルス感染症

移植後のウイルス感染症には以下のような疾患があり、いずれも有効な治療法の確立が待ち望まれている領域です。

造血幹細胞移植後アデノウイルス感染症

造血幹細胞移植後アデノウイルス感染症は、造血幹細胞移植を受けた小児患者のおよそ30%、成人患者のおよそ6%にみられ、特に肺炎を合併した場合、死亡率が高くなると報告されています。承認された有効な治療法はなく、治療薬が切望されている空白の治療領域のひとつです。本感染症に関して、現在、ブリンシドホビルは第Ⅲ相臨床試験へ向けた段階にあります。

ポリオーマウイルス感染症

ポリオーマウイルスに分類されるウイルスとして「BKウイルス」、「JCウイルス」などが知られており、主に泌尿器系リンパ組織に持続感染します。健康であれば、通常、症状は現れませんが、免疫力が低下した際に再活性化し、BKウイルス腎症による移植腎の喪失(グラフトロス)や、JCウイルスによる進行性多巣性白質脳症(PML)などの重篤な疾患を引き起こす場合があり、これに対する有効な治療薬がない状況です。ブリンシドホビルはこれらのウイルスに対しても活性が認められており、臨床的応用が期待されます。
シンバイオ製薬と米国ペンシルベニア大学との共同研究で、2024年7月、ブリンシドホビルが免疫不全状態においてもポリオーマウイルスの感染性ウイルス産生を抑制したという非臨床試験の知見が米国学術誌「mBio」で発表されました。

進行性多巣性白質脳症(PML)

進行性多巣性白質脳症は、JCウイルスが原因で引き起こされる脳の疾患です。
JCウイルス自体はありふれたウイルスで、成人の80〜90%が抗体を持つほど広く蔓延しています。通常、このウイルスは症状を引き起こすことなく、腎臓や血液細胞に潜伏感染しています。しかし、病気や治療などさまざまな原因で免疫力が著しく低下すると、潜伏していたJCウイルスが再活性化します。再活性化したウイルスは脳に侵入して増殖し、脳の組織を破壊することでPMLを発症します。
この疾患は極めて予後が悪いことに加え、現時点では有効な治療薬は確立されておらず、原因によっては生存期間の中央値が3カ月と非常に短い場合もあります。

「がん治療の新薬」へ高まる期待

多くのがんの発生にはウイルスが関与することが知られています。そこで、ブリンシドホビルの抗ウイルス効果をがん治療に生かすための研究が、シンバイオ製薬とシンガポール国立がんセンターとの共同研究を端緒として2021年にスタートしました。
研究は、特に多くのがんに関与しているとされるEBウイルスの阻害に関して進められ、その過程で、ブリンシドホビルがEBウイルス陰性のがんにおいても「抗腫瘍効果」を示すことを発見しました。これは、ウイルスが関与していないがんに対してもブリンシドホビルの効果が期待できることを意味しています。ブリンシドホビルは、「がんシグナル経路の遮断」や「免疫応答」などの独自の作用をもつことが解明されており、具体的ながん種として「NK/T細胞リンパ腫およびPTCL」と「膠芽腫」に関して研究が進められています。

NK/T細胞リンパ腫

NK/T細胞リンパ腫は悪性リンパ腫のひとつであり、NK細胞またはT細胞由来のリンパ腫で、主に鼻腔周囲や皮膚に発生します。中国を含めた東南アジアに比較的多くみられるのが特徴で、標準的治療はいまだ確立されていません。

膠芽腫

膠芽腫は、原発性脳腫瘍のうち髄膜腫に次いで多くみられるもので、脳を形成する神経細胞(ニューロン)と神経膠細胞(グリア細胞)のうち、神経膠細胞が腫瘍化したものです。膠芽腫は悪性度が高く、手術、放射線、化学療法による治療が行われていますが、5年生存率は16%とされています。

3つの脳神経疾患への挑戦

ブリンシドホビルの3つ目の治療領域が、脳神経変性疾患領域です。この領域の疾患にもウイルスが原因とされるものがあり、ポリオーマウイルスの一種であるJCウイルスが引き起こす進行性多巣性白質脳症(PML)のほか、世界で230万人以上が罹患している「多発性硬化症」、そして、日本国内で79万人、世界で760万人と推定される「アルツハイマー型認知症」が挙げられ、それぞれにウイルスの関与が報告されています。これらの疾患に対して、ブリンシドホビルが新たな治療の道を拓く可能性があるとして、現在、以下の3疾患についての研究がグローバルに進められています。

多発性硬化症

厚生労働省指定の特定疾患である神経難病で、中枢神経の自己免疫疾患です。脳、脊髄、視神経などに発症し、さまざまな神経症状が現れて再発と寛解を繰り返します。多発性硬化症の原因として、EBウイルスが主要発生因子となっているという研究結果が2022年1月にハーバード大学の研究チームにより発表され、「サイエンス」誌に掲載されました。
シンバイオ製薬では、世界最大の生命科学・医学研究所である米国国立衛生研究所(NIH)に所属する米国国立神経疾患・脳卒中研究所(NINDS)との間で、2023年3月に共同研究開発契約を締結し、臨床試験に向けた研究を順調に進めています。

EBウイルスによる多発性硬化症

アルツハイマー型認知症

高齢化等により将来の患者数増加が見込まれるアルツハイマー型認知症に対する有効な治療法へのニーズは、ますます高まっています。近年、アルツハイマー型認知症患者から単純ヘルペスウイルス1型DNAが検出されたことがオックスフォード大学の報告で明らかにされるなど、この疾患と潜伏ウイルスの再活性化との関連性について研究が進んでいます。
シンバイオ製薬では、現在、米国タフツ大学と同大学が確立した「3次元神経組織培養脳モデル」を用いて、単純ヘルペスウイルス1型感染モデルに対するブリンシドホビルの効果を検証する共同研究を進めています。