CSRの取り組み
社長対談

第7回

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持続可能な発展を意識する流れの中で
谷本
この問題を、異質性をどう扱ってきたかという観点から考えみようと思います。
私の研究のベースはマネジメントですが、マネジメント論の中でもベースにシステム論があります。そこでは、変化というものがどのようにして起きるのかを分析・研究しています。
世界には多様なものが現実に存在しています。システムの安定性を強く求めようとすると、異質なものを排除する動きが出てきます。大きな影響力をもつものがシステムを支配して安定状態を確立するというのがこれまでのスタイルでした。例えば、資本や情報を持つ人たちが、世界の秩序をコントロールしてきました。
しかし、世の中は多様で、ダイナミックです。
さらに、これまでにないイノベーティブな発想はどのようにして得られるのか。70年代以降、異質なものを排除するのではなく、共生的に新しいシステムをつくっていくにはどうすればいいかという議論が盛んにされるようになってきました。また、70年代後半に石油資源の有限性が言われるようになり、地球環境問題は国境を越えてみんなで共有しないと経済活動そのものが危うくなるということが理解され始めたのが90年代です。
オイルショック後の頃は、環境・社会のことなど言っている場合ではないという状況でしたが、90年代頃から大きく変わり、地球社会の持続可能性の問題が問われ出しました。キーワードは「サステナビリティー」です。そこでは多様なステークホルダーがともに議論し、新しいルールをつくり、共有していく時代になりつつあります。CSR(企業の社会的責任)の議論の根本はそこにあります。持続可能な経済社会を作っていく上で、企業にも役割や責任があるということになり、企業の社会性、ステークホルダーとの関係が問題となってきました。
吉田
私たちが最も関心のあるテーマです。改めて勉強させていただきたいと思います。
谷本
日本におけるCSRの議論は、企業による不祥事の頻発と重なり、コンプライアンスから入っていかざるをえないところがありましたが、グローバルに議論されてきたCSRは、サステナビリティーをどうするかというところから入って行きました。基本はまず環境問題でしたが、90年代半ばには貧困、人権、労働、地域社会などにも問題が拡がっていき、それらを抜きにして経済発展はないという話になっていきました。  さらに90年以降、「社会的責任投資(SRI:ソーシャリー・レスポンシブル・インベストメント)という動きが市場の中で出始めました。企業の問題は監督官庁が規制する、裁判になるというのが従来のスタイルでした。それが、例えば途上国における工場で劣悪な労働環境や児童労働の利用などによってコストダウンをしていることが明るみに出ると、その企業の製品が消費者から激しいボイコットを受け、市場が反応するようになる。株価が一気に落ちてしまうということをアメリカの大企業は経験しています。反対に「バイコット」(いい会社の商品を買おうという動き)も出てきました。ただ批判するだけではなく、買う、買わないという行動を消費者や投資家が取るようになってきたわけです。 社会的責任投資は、そのようによい会社の株を買おうという動きです。企業もそれに対応する必要に迫られ始めました。
吉田
自分の利益を追求するだけではなく、社会的存在へと企業が変化してきたわけですね。
谷本
持続可能な発展を意識する流れの中で、社会的責任投資は新しいステージを迎えることになります。一部の特殊な社会的関心のある運動家のような投資家だけでは広がりはないのですが、環境や社会リスクが評価され、アナリストが非財務の情報についても丁寧に分析するようになり、しだいにメインストリームの中に入っていくわけです。
そういう評価が特に北米、EUの市場に出てきており、日本企業もグローバル市場で売上高を増やしたり、資金調達をするようになっており、その動きを無視できないようになっています。それでCSR報告書を出す、それも英語版が大事なのです。英語版を出さないことには、向こうのSRIのアナリストたちには通じないので対象銘柄にすらなりません。財務、非財務を含めたトータルな企業価値、市場社会における「レピュテーション(評判)」が重要になって来ました。
第8回につづきます