CSRの取り組み
社長対談

第7回

  • 印刷用PDFデータ
  • 社長対談のトップへ
事業の社会性と市場との折り合いを
谷本
そのような空白の治療領域にシンバイオ製薬はチャレンジしたわけですが、当然、大手製薬会社と同じようなビジネスモデルでの事業展開は難しいですね。
吉田
シンバイオ製薬の特長は、「空白の治療領域」を埋める新薬の開発・提供を行う独自のポジションと、世界で上市または開発後期の創薬を日本に導入し、短期間で開発・上市するビジネスモデル、そして創薬を探索する世界的なネットワークとサイエンティフィック・アドバイザリーボード(SAB)の存在、バランスのとれた優秀なマネジメント・チームにあります。
私どもは患者さんを中心とした事業をしていますが、資金を提供して下さる方がいないと事業展開ができません。私どもの株主構成は、創業当時から投資していただいたベンチャー・キャピタルと、私どもの事業理念に賛同いただいた事業会社でしたが、上場したことにより約5000人の方に株主になって頂きました。当社は社会性の高い事業に取り組んでいますが、冒頭申しあげたように、投資家からすると早く利益を出して投資を回収したいという気持ちがあります。資金を提供する方は、私どもの理念なり事業使命を理解して投資をされているとわれわれは考えていますが、投資家の中には必ずしもそうではない方もおられます。その時間軸の差がステークホルダーによってだいぶ違うことを、上場したあとに痛感しています。
谷本
シンバイオ製薬のように新薬のシーズ探しから日本で開発をし、承認を取るまでに多大な時間と労力を要する事業では、短期間で利益を出すことは難しいでしょう。片や投資家のニーズもあり、どうのようにして理解を得て、経営のバランスをとるかが問題だというわけですね。
吉田
われわれとしても早期に利益を出さなくてはいけないのですが、事業の本質が研究開発であり、利益を上げるまではどうしても時間がかかります。
現在、私どもの開発のパイプラインには、四つの新薬のシーズが入っています。一つの開発に60億から100億近い資金が必要になり、単純に4×70とすれば300億近い資金が必要になります。われわれとしては、将来、五つ目、六つ目、七つ目の新薬を開発しようということで、全世界のバイオベンチャーと話を進めていますが、パイプラインを拡充すればするほど開発組織は大きくなり、開発経費は上がっていくという循環に入ります。企業使命としては、困っている患者さんのために何としてでも事業を継続し遂行することが必要だと考えていますが、投資家からすると早く利益を出してほしいということになり、常に、綱引きがあります。
谷本
今の市場の中で一番難しい問題ですね。
吉田
医薬品の開発は、通常10年から15年かかるところを、われわれは最初の新薬を5年で患者さんにお届けすることができ、私どもの事業モデルを実現しました。多くのものが失敗に終わり、消えてなくなるのが創薬事業の難しいところです。そういうことから考えれば、すでに一つ承認が取れていて、二つ目、三つ目も臨床試験が進んでいます。これらも承認に至って、売上、利益に結びつく確率は高いのですが、欧米でいいデータが出ていても、日本人の患者さんでデータを取り直して、有効性と安全性に問題ないかを確認する必要があります。
谷本
どこの国でもそうなのですか。
吉田
シンガポールや香港などのように、欧米のデータがあればそれで十分だという国もあります。しかし、特に日本の当局は、以前から日本人で試験をやらないと承認を下さないことになっています。最近になってようやく欧米の第Ⅲ相試験データを使い、日本の試験との組み合わせでも良いということになりました。しかし、そのために二つの試験は最低必要になります。
いずれにせよ、第Ⅰ相試験、第Ⅱ相試験をするためには5年はかかり、80億円近くの費用が必要です。それを4本走らせていると、開発経費が積み上がっていくのです。
谷本
そういうことになりますね。
吉田
売上が上がってくるのは承認が取れてからです。最短の開発期間で承認に至っても、売上が上がるまでには5~6年はかかりますし、次のものが5~6年で承認が取れると10年位でようやく売上が積み上がってくることになります。インターネットのビジネスなどは2~3年で数億の単位で投資して3年位で利益が出ますが、そういうものとは違うのです。
谷本
この20年の市場のありようはだいぶ変わってきましたが、そこが資本主義市場のいちばん悩ましいところだと思います。
吉田
私どもの事業が社会性の強いものであるだけに、市場との折り合いに苦慮しているところです。