CSRの取り組み
社長対談

第2回

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外部企業とのコラボレーションで高確率の新薬を継続的に導入
岸本
早期発見のためのがん検診について、私もいろいろな機会に
申しあげていますが、早期に発見しても救えないがんから患者を救うのは、
結局、基礎研究ではないかと思うようになりました。
対がん活動というと、世の中で見えやすいのは予防検診と、がん患者さんへの
支援の二つがですが、実は基礎研究が治癒率を上げていく基本だと感じています。
吉田
基礎研究が進めば、治療法も進化します。
中でも製薬の分野では、基礎研究あっての新薬開発です。
ところが、それがうまくいくケースが非常に少ない。特に、私たちのような
「空白の治療領域」では開発の難易度が高く、またリスクも高くどうしても
新薬の開発が滞りがちになります。
今回私たちが承認を取った抗がん剤のように、初回の患者さんにも使いたい、
他の疾患にも使いたいと先生方から要望が出ても、資源は有限ですので
総ての期待に応えることはできない、まず本当に必要なものに資源と資金を投資して
開発に当たらざるを得ません。
患者数の少ない疾患分野での事業構築に、国がもう少し前向きに協力をしてくれると、
ずいぶん違うと思うのですが。
岸本
問題はどのあたりにあるのですか。
吉田
糖尿病など生活習慣病の患者数が多く、治療期間が10年も20年も
継続するようなところで大手製薬会社は主にビジネスをしてきました。
逆に、患者数が少なく、しかも高い専門性が求められ、
開発の難易度が高い治療領域は避けて通ってきたわけです。
結果として、日本ではその部分の治療が空白化し、
研究・開発が欧米に遅れること十数年ということになってしまいました。
これについては、医薬品会社にも問題があり、また行政側の審査体制とプロセスにも
問題があったと思います。
岸本
欧米では、事情が違うのでしょうか。
吉田
欧米においても、もちろん大手製薬企業は患者数の少ないところには
あまり手をつけたがりません。
その代わり、バイオベンチャーは、患者数は少なく市場規模は小さいけれど
医療ニーズが高く手つかずの領域、それはむしろ付加価値の高いニッチ市場でもあり、
そのような治療領域に特化をした事業を展開しています。
むしろ、それこそがベンチャー企業の使命ではないでしょうか。
しかし、主に研究者の人たちが独自の先端技術を実用化するために設立した
バイオベンチャーは、売り上げもなく利益も無いためどうしても資金が不足しがちです。
そこで、欧米では大手製薬会社とバイオベンチャーが業務提携して、
相互にリスクと利益を共有化するスキーム多くなっています。
それに対して、日本の大手は2007~8年までそのような仕組みに
あまり興味を示さなかったため、バイオベンチャーが育たず、
欧米から取り残されてしまいました。
これは産業政策上の問題でもあるのですが、いま全世界に3,300社から3,400社程の
バイオベンチャーがある中で、日本には残念なことに300社もありません。
岸本
ニッチな市場を目指す日本と外国のベンチャー同士が、
一緒に組むというのはどうなのでしょう。
吉田
岸本さんのおっしゃるとおりで、まさに、それこそがシンバイオの事業モデルです。
私たちは、自らは研究所を持たず欧米のバイオベンチャーの研究成果を掘り起こし、
日本では手つかずの治療領域で医療ニーズが高い治療領域を埋めるため、欧米の
バイオベンチャー企業から抗がん剤導入することを目的としてこの会社を設立しました。
新薬誕生までには、通常10年以上の長い期間と数百億円以上の
巨額な開発費が必要とされます。
私たちは、基礎研究を行う世界中のバイオベンチャーから新薬のシーズを導入し、
その治療領域に特化した専門性の高い優れた開発能力を構築することで、
それを5~6年以内という最短の期間で達成しようとしています。
開発期間が短ければ、それだけ開発コストとリスクも低減されるわけです。
このように外部企業とコラボレーションすることにより、
市場規模のの小さなニッチ市場であっても、開発コストの低減化と開発の成功の確率を
高めることができれば、高収益が期待できる経営を目指します。
高確率の新薬を継続的に導入し、収益を積み重ね、企業価値を高めようというのが、
私たちのコンセプトです。
岸本
そのアイデア自体がすばらしいですね。
吉田
私たちの組織の中に、探索と評価を専門とするサーチ・アンド・エバリュエーション
というグループがあり、そこで常に欧米のバイオベンチャーで研究されている
シーズをモニターしています。
優れた薬が見つかれば、社内での評価を経てこの分野の専門家で構成されている
SAB(サイエンティフィック・アドバイザリー・ボード)に諮り、
日本にぜひ導入すべきだという判断になれば、そのバイオベンチャーとの交渉に入ります。
我々の行動様式はハンターでして常に世界中で開発されている優れた新薬の候補を
モニターし、いいものがあれば明日にでも飛んで行って交渉をして導入します。
私自身も年に7、8回は世界中を回っています。
岸本
自社の研究所から上がってくるのを待つのではなく、
多くの石から玉を見つけようとされるわけですから、そのための専門知識とともに、
玉石をふるいにかける目利きの能力も大事でしょうね。
吉田
新薬との出会いは偶然に見えても、人と人の出会いと同じで、
後で見ると必然性があったいうことがあります。
岸本
その中で、印象的なことはありましたか。
吉田
骨髄の病気で、骨髄異形成症候群という難しい病気があります。
その治療のために開発された薬が米国には三つほどあり、日本では、
ようやく2011年3月に最初の一つが承認されました。
欧米では十年近く使われていたものです。
しかし、その薬を使っても再発率がかなり高く、再発すると、もうよい治療薬がないのです。
それに対して、私たちは再発患者さんのための薬を見つけ導入し、
2012年から臨床試験を開始することになっています。承認されれば、
患者さんに大きな光明となるはずです。
こういう薬との出会いは、玉石混淆の中から、
良いものが出てきたときには判断が出来るのです。
無駄足を踏むことを恐れないことです。むしろ無駄足を踏むことで、多くを学ぶことが出来ます。
そこに至るまでに膨大な数をスクリーニングしていくのですが、
いい新薬に出会ったときとは往々にして直感が閃くのです。
骨髄異形成症候群の治療薬に出会ったときも閃きました。
これは患者さんが真に求めている薬であり、必ずその病気との戦いに貢献すると確信しました。
岸本
サイエンスの世界なのに、それを超えたものがあるというのは興味深いですね。
吉田
それは、常に多くのものを見ていないと出てきません。
常に世界中で科学の進歩とともに、多くの新薬が開発されておりますが、
開発中の新薬の候補といえど玉石混交です。
当然、サイエンスの世界ではありますが、膨大な数の新薬候補を見ていて出てきたときに、それを掴めるかどうかが勝負を分けます。
岸本
玉石混淆どころか、砂の中から一粒の宝石を探すようなことなのかもれしません。
それが、この仕事のたいへんさであり、やりがいでもありますね。
吉田
いろいろ難しい問題はありますが、
よい新薬と出会ったときの感動がすべてを帳消しにしてくれます。
優れた新薬を見つけて開発資金を集めて開発をし、
承認を取って患者さんに喜でいただけるというのは、お金には代えられない喜びです。
岸本
自分に対する満足だけではなく、たくさんの人を救うというのは本当に夢があります。