CSRの取り組み
社長対談

第2回

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日常と切り離さないケアを大切に
岸本
多くの再発がん患者さんや再再発の患者さんと話をしていて気づいたことがあります。
新しい治療や治験、臨床試験を探す理由として皆さんがおっしゃるのは、
短くても普通の生活を維持したいということです。
がんは治らないかもしれないけれど、いまあるがんを少しでも抑えて、
普通の生活を続けることができればと思う、そのために病気に向き合うのだと。
1日でも長く生きたいと言った方は一人もいません。
できれば家で家族と過ごし、ときには旅行などもして普通の生活を楽しみたい。
延命ではなく、充実した日々を送ること――。それが皆さんの願いでした。
治療やお薬の使い方では、QOL (Quality of Life)の維持が
大事なポイントだということでしょう。
吉田
製薬の側としても、患者さんの生活の質の充実に心したいと思います。
岸本
QOLを高めるうえで、医療者と患者の係わりについて私が大切だと思うことがあります。
それは、医療提供者が次の二つの姿勢を患者さんに示すことです。
一つは継続的な支援、もう一つは選択肢の提示です。
抗がん剤や新しい薬を試すとき、患者さんは期待感と同時に、
この薬で効果がなかったら見放されるのではないかという不安があります。
そこで、たとえその薬が効を奏さなかったとしても、最後まであなたを支援し続けますというメッセージを、早い段階から送っていくことが大切です。
いまの医療体制では、例えば腫瘍内科や血液内科の先生がいて、
ある薬が効を奏さなくなったら、緩和ケア科にバトンタッチということになりがちです。
そうではなく、緩和ケア科の先生が腫瘍内科チームあるいは臨床研究チームと
一体となって初めから活動すれば、支援が途切れたという思いはなくなると思います。
吉田
シームレスな医療体制で、患者さんを支えるということですね。
岸本
医療提供者にすれば、あるいはもう使える薬がなく、
選択肢の示しようがないと思われる状況かもしれません。
しかし、本当にターミナルの状況でも、選択肢は現場でまだまだ示しようがあると思うのです。
患者さんが、家族とのコミュニケーションを取りたい、あるいは書きものをしたい
ということであればモルヒネを使う時間を調節するとか、
多少痛みがあっても量を減らすといった判断があるかもしれません。
仮に治療が終わって使える薬がなくなっても、
患者さんに希望をもたらし、支援する方法はまだある、
「あなたのQOLを維持するために、私たちは常に対処応方法を示し続けます」
と伝えることが大切です。それが尊厳の維持、希望の提供であると思います。
心のケアというと何か日常の診療とは別のところにあるようにイメージされがちですが、
医師なり看護師なりの方々が、日常のケアにおいて、
今申したような姿勢で言葉掛けをし、選択肢を示し、
患者さんとともに対処の方法を考えていく中に、医療提供者としてできることはあるはずです。
吉田
そのことに、どのようにして気づかれましたか。
岸本
私の虫垂がんから2年が経ったとき、乳房にシコリがあったので、
診察室を出るタイミングで話したところ、先生が触診をして、
良性か悪性か五分五分ですねということで、すぐにその場で乳腺外科の先生に受診できるようにして下さいました。
さらに乳腺外科では、いくつかの検査でも良性か悪性か結論が出ず、
次の検査の結果によっては乳がんとして対処しなければいけないというとき、
結果を聞く日の予約を入れながら先生がこう仰有ったのです。
「次にいらしたときに、検査の結果によっては、一緒に治療方針を立てていきましょう」と。
それは私にとって、すごくサポーティブな言葉でした。
吉田
厳しい結果も想定しなから、その場合でもあなたを支えますよというメッセージですね。
岸本
私が乳がんかもしれないという可能性が高まっているタイミングで、
「一緒に治療方針を立てていきましょう」
という言葉には三つのメッセージが込められていると思いました。
一つは、一緒に取り組みましょうというパートナーシップ。
もう一つは、それで当事者は私自身であるという当事者意識の啓発。
三つ目は、“一緒に治療方針を立てていきましょう”という継続的な支援の表明です。
そのメッセージを、その短い言葉で感じました。
よく考えられたサポーティブな言葉だと思います。
わずか3分間の限られた診療時間内の一言でも、こんなに医療提供者にとってできることがあるのだと感じました。